さまざまな検査方法
一般的な検査以外にもがんの大きさや広がりを調べるためにCTやMRIを使うことがあります。ヘリカルCT、ガドリニウムMRI、さらに話題のPET(ペット)などさまざまな方法が開発されています。
腫瘍マーカー検査は、手術後の経過観察や治療効果を判定するのに有効です。
PETとは、Positron Emission Tomography 陽電子放出断層撮影の略です。
正常な組織ががん化すると、形だけでなく、機能も変化します。形の変化をとらえるのがCTやMRIだとすると、PETは組織の機能の変化からがんを見つけ出します。
がん細胞は正常細胞に比べ活発に増殖するため、多くのブドウ糖を必要とし細胞内に取り込みます。そこで、弱い放射線を出す物質を付加したブドウ糖(FDGという)を注射します。がん細胞はブドウ糖をたくさん取り込むので、FDGはがん細胞に集積します。そこをPETカメラで全身を一度に撮影します。そうすれば放射線を出している場所を画像上で特定することができます。検査時間は約30分です。
PETでは、黒くなっている部分は90%に近い確率でがんです。全身の検査が一度にできますが、脳だけはもともとブドウ糖が高濃度に集積しているので、同時に検査できません。発見できるのは6〜8mm以上の大きさ。MRIは1〜2mmまで発見できます。前進を一度に見るので画像がやや不鮮明で、正確な位置を特定できないこともあります。患者さんの負担が高額(8万円前後)で、検査できる施設も限られます。
PET(ペット).2
PETで見つけやすいがんは、甲状腺がん、肺がん、乳がん、大腸がんなど。見つけにくいのは胃がん、肝臓がん、前立腺がん、腎臓がん、膀胱がんなどです。
乳がん治療でPETが有用なのは、腫瘍マーカーが上昇しているのにCTや超音波検査ではどこに転移があるかわからない場合や局所進行乳がんで転移の有無を見る場合などです。
最近ではPETとCTを合体させ、お互いの欠点を補ったPET−CTという装置も開発されています。ただし、この装置は、日本ではまだ数ヶ所にしかありません。
CTでは臓器の形ははっきりわかりますが病変の有無が不鮮明です。PETは有無ははっきりわかりますが場所が不鮮明です。そこで2枚を重ねて画像処理すると、病変の場所もよくわかります。
早期がんに対する標準治療としては、乳房温存療法が定着しています。乳房を全部切除するのでなく、病変部だけを部分的に切除します。そのためには、単に良性・悪性の診断だけでなく、がんがどう広がっているかをあらかじめ知らなければ、切除する範囲が決められません。この場合にヘリカルCTやMRIが活躍します。
CTはコンピュータ連動断層撮影のことで、ヘリカルは「らせん」という意味です。従来のCTは人体を輪切りにスキャンしていたのですが、ヘリカルCTはX線を発する管球をらせん状に連続して回転させて撮影します。りんごの皮むきのように連続スキャンすることになります。高速で撮影するので、何回も息を止める必要もありません。1回の息とめで撮影できます。高画質で3次元表示もできますから、小さいがんの発見などに威力を発揮します。
MRIの方は、核磁気共鳴画像といい、磁気を利用しています。放射線を使っていないので被曝の心配はありません。あらゆる角度の輪切り画像が可能で3次元表示もできます。
乳がんの広がりを見る場合は、CTもMRIも造影剤を利用します。MRIではガドリニウムという薬を造影剤として注射してから撮影しますが、それを特にガドリニウム造影MRIといいます(MRM,MRマンモグラフィーと呼ぶこともある)。がんは2mm以上に成長するためには、新生血管を作って自前の栄養補給路を確保しなければいけません。そこで造影剤を注射して、それが新生血管に到着した頃を見計らい(1分30秒から3分以内)撮影すれば、新生血管から造影剤が染み出してきて、画像に映し出されます。これでがんの広がりがわかります。MRIは、1mmの単位まで映し出すので、新生血管をつくる2mm以上のがんは90%以上わかります。
かつて血性乳頭分泌の診断は、分泌している乳管に造影剤を入れて乳管造影し影の有無を調べていました。原理としては胃のバリウム検査と同じです。しかし、MRIでは、新生血管をたくさん持っている乳管があぶりだしのように映し出されるのです。ただし、両性の線維腺腫や乳腺症の一部でもガドリニウムで造影されることがあるので、注意が必要です。
最近では、乳房温存療法ができない大きながんに対して、まず化学療法でがんを縮小させ、乳房温存療法を可能にするという術前化学療法も行われています。この際に、果たしてがんが本当に小さくなったかどうかの判定にもCTやMRIが使われます。
がんの縮小の仕方には2通りあります。限局縮小型と樹枝状遺残型です。限局縮小型は1ヶ所に固まっていますが、樹枝状遺残型は乳房中に分散しているタイプです。前者なら温存療法が可能ですが、後者ならがんの絶対量は減っていても、範囲としては小さくなっていません。このまま温存療法をおこなえば切り取っっても組織の切断面にがん細胞が残っていることになる可能性があります(断端陽性)。従来の画像検査では限局縮小型と樹枝状遺残型を見分けることはできませんでしたが、CTやMRIなら可能です。
がんの手術では、がん細胞を残さずとり切ることが重要ですが、さらに乳房温存療法では、できるだけ小さく取りきることが求められます、執刀医は、がんを切除したら、切除した組織をその場ですぐ病理医に渡します。病理医は、切除した組織の乳頭側の端を薄く切って、顕微鏡で調べます。なぜ乳頭側かというと、乳がんは乳頭に向かって広がる性質を持っているからです。これを断端検査といいます。
この検査の結果、がん細胞が見つからなければ切除はそこで終了します(断端陰性)。もしがん細胞が見つかった場合は、その場でさらにもう少し大きく切除し、再び断端検査をします。断端陰性にしてから次の段階に進むのが原則です。
再発・転移の検査には、腫瘍マーカー検査や、転移先の臓器レントゲン検査などが行われます。
腫瘍マーカーとは、がん細胞の目印になる物質の総称で、がん細胞が作り出す物質、あるいはがん細胞に反応して正常細胞が作り出す物質のことです。現在30種類ほどの腫瘍マーカーが臨床試験で使われています。
腫瘍マーカー検査は補助的な検査ですから決定的なものではりません。ほとんどの腫瘍マーカーは複数の臓器で作られます。代表的な腫瘍マーカーのひとつ、CEAなどは、胃、大腸、すい臓、肺などでつくられますから、数値が上がったからといって、どの臓器と特定することはできません。また、早期がんでは腫瘍マーカーは正常値の範囲内にあるので、早期がんの発見には使えません。低分化型がんは進行がんになってからも、正常値を示します。
乳がんの検査で使われている代表的な腫瘍マーカーは、CEA、NCC−ST−439、CA15−3、BCA225の4種類です。使用する目的は、術後の経過観察に用いることもありますが、主に転移性乳がんに対する治療効果の有無を見るためです。腫瘍マーカーで転移が見つかるのは70%で、30%の人は転移があっても異常値を示しません。治療効果の有無の判断に際しても、腫瘍マーカーだけで判断することはなく必ず画像検査で確認します。
転移の有無を調べる方法としては、腫瘍マーカーの他に、必要があればレントゲン撮影、肝臓超音波、骨シンチグラフィー、CT、MRIなどを使って、転移の可能性のある臓器を調べます。
ただし、再発・転移を早く見つけて治療を始めても、症状が出てから治療を開始しても、残念ながらその後の生存期間に変化はないとされています。
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