乳房の再建 1
乳房再建手術には、乳がん手術と同時に行う1期再建と、乳がん手術後、時期をおいて再建する2期再建の2つの方法があります。
1期再建は、手術が1回で済み、傷跡を再度切り開く必要はありません。しかし一方で、乳がんの告知を受け、平静ではない心の状態で再建のことまで考えるのはなかなか難しいことです。十分なインフォームド・コンセントがないと後で後悔することにもなりかねません。
1期再建を行うに際し、費用の問題もあります。再建手術は保険がきかない自由診療扱いになることが多く、現時点では、自由診療と保険診療を組み合わせた診療は認められていないので、同時に手術すると、乳がんの手術まで自己負担になってしまいます。更に、再建手術を専門とする形成外科医が治療チームに加わっていればいいのですが、そうでない場合は、乳がんの手術を担当する外科医が再建手術も行うことになります。
1期再建に対し2期再建は、確かに2度手術を受けなければなりませんが、乳房切除後にいろいろ考えて準備した上での決断なので、後悔する率も少ないようです。再建手術には手遅れはありません。いつでもできるのですから、自分の気持ちをよく確かめて、十分に情報収集してからでも遅くはありません。
乳房の再建 2
再建手術の方法には、大きく分けると人工物を挿入する方法と自分の組織を移植する方法の2つがあります。両方を併用することもあります。
人工物を挿入する方法ですが、非定型手術(オーチンクロス法やペイティー法)など比較的切除範囲が狭く、自分の組織(皮膚や筋肉)が十分残っている場合に行われます。使用される人工物はやわらかい質感のシリコンが一般的です。ソフトコヒーシプシリコンというもので、日本ではまだ認可されていないため個人輸入の形になります。従来のシリコンや生理食塩水バッグは、敗れたりすると中身が散って大変でしたが、これは安全という点でも感触という点でも優れています。
乳がん手術の傷跡を切開し、風船状の袋(エキスパンダー)をしぼんだ状態で挿入します。そこに生理食塩水を注入し、2週間後にまた注入し、少しずつ皮膚を伸ばしていきます。エキスパンダーをはずしても皮膚が後戻りしないことを見極めた上で、エキスパンダーとシリコンを入れ替えます。エキスパンダーの挿入及びシリコンとの入れ替え手術は全身麻酔で行われますが、日帰りでもできます。なお、1期再建の場合は、手術時にエキスパンダーを挿入します。
乳房の再建 3
自分の組織を使用する方法ですが、これには背中の筋肉を使う後背筋皮弁法と下腹部の筋肉を使う腹直筋皮弁法があります。
筋皮弁法とは皮膚+脂肪を筋肉につけて移動させることです。血管や神経は切らずに胸壁まで移動します。
この2つの方法は人口乳房に比べ仕上がりは自然で、ぬくもりを感じる点などが優れています。しかし、背中あるいは下腹部に新たな傷を作ることになります。傷そのものは一生消えませんが、ブラジャーやショーツに隠れるような位置に傷を作り、形成外科的な特殊な縫い方などで目立たないようにすることは可能です。
後背筋皮弁法は、人工乳房だけでは再建できない場合に行われます。残っている皮膚が足りない場合、放射線の照射で皮膚が硬くなって伸びない場合、人工物を入れるのに抵抗がある場合などです。背中の皮膚、脂肪、筋肉を乳房の欠損した部分に移植しますが、背中は筋肉も脂肪も薄いので人工乳房を併用することもあります。手術には数時間かかり、1週間から10日前後の入院が必要です。
腹直筋皮弁法も、後背筋皮弁法と同じく皮膚や筋肉の欠損が大きい場合、あるいは人工物を入れるのに抵抗がある場合などに行われますが、再建手術の中ではもっとも患者さんの負担が大きい手術なので本人の強い希望がなければ行いません。出来上がった乳房は柔らかく自然です。入院は最低でも2週間、普通の生活に戻るのに1〜3ヶ月かかります。
乳頭、乳輪の再建は、乳房の再建が終わってから数ヵ月後に行うのが一般的です。健康な側の乳房と位置や形をそろえるためには、やはり再建した乳房の形が落ち着いてからがいいでしょう。乳頭・乳輪の再建では、反対側の乳頭・乳輪の半分を移植するという一般的な方法については、健康保険が適用されます。
乳頭は、健康な側の乳頭の一部を移植したり、それができない場合は、乳頭にあたる部分の皮膚を立体的に盛り上げてつくるなどの方法があります。
乳輪は反対側の乳輪からの植皮や刺青の方法でつくります。鼠蹊部から植皮することもありますが、色が合わない、長年の間に色あせるなどの問題点があります。
乳房の再建 4
人工物を挿入した場合には、被膜拘縮という合併症が起こることがあります。人工物に対する自己防衛反応として、挿入物のまわりに被膜が形成されるのですが、その被膜が硬くなるとカプセルのようになってしまうのです。以前は5人に1人の割合でこの被膜拘縮が見られましたが、挿入するシリコンが改良され、予防できるようになりました。
1期再建の場合に多いのですが、炎症がおさまらなかったりして、人工物を取り除かなければならない場合もあります。
自分の組織を使った再建で多いのは、移植した組織が血行障害のために壊死してしまうことです。この合併症は喫煙者、糖尿病や肥満の人などに多いです。
白血球減少、出血性膀胱炎、脱毛、吐き気や嘔吐、肝障害、腎障害、口内炎などがあります。抗がん剤の副作用はつらいと、頭から思い込んでいる人も多いと思います。しかし、抗がん剤によっては比較的軽いものもあるし、また人によっては全然出ない人もいます。最近は副作用の症状を抑える薬も出ていて、吐き気などはかなり予防できるようになってきました。抗がん剤の治療のときは、リラックスを心がけると副作用が抑えられます。音楽を聴いたり、本を読んだり、患者さん同士で情報交換したり、好きなことをやってリラックスすることが大切です。
嘔吐は、抗がん剤投与から3日以内に起こる急性期(薬剤起因性)嘔吐、それ以降も持続、あるいは数日たってから起こる遅延性嘔吐、点滴のことを考えただけで起こる予測(心因)性嘔吐の3つに大きく分けられます。また、口の中の粘膜が荒れて、ヒリヒリしたり、味覚が麻痺したりすることがあります。
アンスラサイクリン系、タキサン系薬剤では、脱毛はほとんどの場合で起こります。中には髪だけでなく眉毛、睫毛、体毛まで抜ける人もいます。残念ながらいまのところ脱毛を完全に予防する薬はありません。脱毛は抗がん剤を投与してすぐ始まるわけでなく、2〜3週間の余裕があります。その間に心の準備をしましょう。
抗がん剤投与後5〜7日目くらいから白血球の成分である好中球が減少します。好中球は身体の抵抗力を担っているので、減少すると細菌感染しやすくなります。熱が出たり、風邪をひきやすくなったり、虫歯が急にうずいたり、食あたりの可能性も高くなります。ただし、これは一時的なもので、2週間ほどたてば、好中球の数は回復します。
その間、風邪対策、食あたり対策をきちんと行ってください。38.5度以上の熱が出なければ、まず危険なことはありません。多くの場合は抗生物質で対応できますが、それでもうまくいかない場合は、短期的に白血球数を上げる薬を使います。
化学療法を数回行うと月経が止まります。。特にエンドキサンは卵巣機能に与える打撃が大きいとされています。40歳未満では約半数が化学療法終了後月経が復活しますが、40歳以上ではそのまま閉経するのが普通です。したがって、妊娠希望のある人は、主治医とよく相談する必要があります。
抗がん剤の副作用 2
タキソールなどで、指先や足裏のしびれといった末梢神経障害が出ることがあります。これといった治療法はないのですが、たくさんの量を短時間に投与すると出やすいので、投与量を減らすといった対策が考えられます。化学療法が終了すれば、しびれは少しずつ軽減します。
タキソテールでは、全身倦怠感が3割くらいの患者さんに出るといわれています。これについても予防法や治療法は今のところありません。ただ、抗がん剤以外の原因で起こることもあるので、よく確認しなければなりません。
タキサン系を使うと、過敏なアレルギー反応が出ることもありますので、注意する必要があります。
アンスラサイクリン系や分子標的治療薬トラスツズマヅによる心臓への影響も報告されています。時に胸壁への放射線治療歴のある患者さんに多いとされ、循環器科との連携が必要です。
乳がんと診断がついた後は、さまざまな検査結果から臨床病期を決め、それによって治療法を選択します。
乳がんの病期(ステージ)は、しこりの大きさと症状(T)、リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)によって分類するTNM分類が国際的にも一般的です。
病期は、0期、T期、UA期、UB期、VA期、VB期、VC期、W期の8期に分けられます。
乳がんのステージ分類
0期・・・非浸潤がん(手術後に確定)
T期・・・しこりは2cm以下、リンパ節転移なし。
UA期・・・しこりはないか、あっても2cm以下で、わきの下のリンパ節転移の疑いあり。あるいは、しこりは2.1〜5cmだが、わきの下のリンパ節転移なし。
UB期・・・しこりは2.1〜5cmでわきの下のリンパ節転移の疑い。
VA期・・・しこりは2cm以下で、わきの下にリンパ節への転移が癒着していたり、周辺の組織に固着している場合。またはわきの下への転移はなく、胸骨の内側のリンパ節が晴れている状態を指します。
VB期・・・しこりの大きさ、リンパ節転移の有無に関わらず、しこりが胸壁にがっちり固着している。あるいは、しこりが皮膚に顔を出したり、皮膚が崩れたりしています。炎症性乳がんはこの病期です。
VC期・・・しこりの大きさにかかわらず、わきの下、胸骨の内側、両方のリンパ節に転移。あるいは、鎖骨の上下のリンパ節に転移しています。
W期・・・しこりやリンパ節の状態にかかわらず、遠隔転移があります。
V期のがんを進行乳がんといいます。当然のことですが、ステージが若いほど生存率や治癒率が高くなります。治療施設にもよりますが、病期別の10年生存率は、0期では約98%、T期で約90%、U期で約80%、V期で約60%、W期で約20%といわれています。
再発には局所再発、領域再発、遠隔転移(臓器転移)があります。
局所再発は手術や放射線治療などをした部位に再びがんが発生した場合をいいます。乳房を全部切除した後の皮膚や皮下に発生した場合を胸壁再発といいますが、これも局所再発に分類されます。ただし、温存療法後の残存乳房に発生する再発とは異なり、胸壁再発は多くの場合、遠隔転移を伴います。
領域再発とは、乳房近くのリンパ節(領域リンパ節)にあった微小転移が成長した場合をいいます。これも局所再発に分類されることがあります。
局所再発が起こるのは、手術時には目や検査で確認することのできないほど微小ながんが潜んでいて、時間の経過とともに育ってくるからだと考えられています。局所再発は、再手術、放射線治療、抗がん剤の投与などで治癒する可能性があります。
遠隔転移は離れた臓器で再発した場合をいいます。乳がんでは骨、肺、肝臓、脳などへ転移することが多いとされています。肋骨や鎖骨などの近いところでも、分類としては遠隔転移です。
がんが最初に発生した場所を原発巣と言います。
遠隔転移には、症状以外にどんな見つかり方が多いかというと、骨転移では骨が溶け始めるので、高カルシウム血症になることがあります。肺転移はレントゲンやCTで見つかることが多く、肝転移では血液検査でGOT、LDH値の上昇として見つかる場合があります。
「分化」とは細胞が成長していく過程のことです。がん細胞は正常な細胞から発生しますが、元の細胞に近い形まで成長したがんを高分化がん、元の細胞の形がほとんど見られない未熟ながんを低分化がん、元の細胞が判別できないものを未分化がん、といいます。
未熟ながん、分化度が低いがんほど増殖の余力を残しているので悪性である度合いは高くなります。それに対し、正常細胞に近いところまで成長した高分化がんは、余力が少ないので、おとなしいがんということになります。
自分が乳がんにかかるリスクがどのぐらいあるかをを知ることは、乳がん予防につながります、医療側から言えば、ハイリスクの人をどうやって選別するかが問題になります。
アメリカには22万人以上のデータを基に作られたゲールモデルというものがあります。一種の計算式ですが、たとえば現在の年齢、初潮年齢、初産年齢、家族歴などのようなファクターをゲールモデルにあてはめると、何年以内に乳がんを発症するリスクが何%なのか出てきます。その数字が一定の基準を越えた人は、予防的なホルモン療法が許可される、というような仕組みになっています。
体中に張り巡らされた管と言えば血管ですが、もうひとつリンパ管という管もあります。リンパ管の源流は毛細血管から細胞の間に漏れ出た液体でこれをリンパ液といいます。リンパ液は死んだ細胞や血球のかけら、細菌などを集めて、細いリンパの流れを作ります。細いリンパ管はだんだん太くなり、最終的には静脈に流れ込みます。リンパ管は言ってみれば下水道の役割をしており、リンパ節は要所要所に配置されたろ過装置です。
リンパ液にはたくさんのリンパ球が含まれています。リンパ球は免疫システムの主役で、リンパ節に流れ込んできた病原体や異物、毒素などと戦います。リンパ節が腫れるのは、リンパ球がそれらと戦っている証拠です。異物の力の方が強いと、リンパ節が壊されることもあります。リンパ節に流れ込んだがん細胞は、リンパ球に殺されることもあれば、そこに新たな病巣を作ることもあります。
乳がんに限らず、すべてのがんは、上皮細胞の異常増殖です。上皮細胞を乗せている膜を基底膜といいます。上皮ではなく間質から発生した悪性腫瘍は、肉腫といいます。
乳管の中にがん細胞が密集してくると、中心部分のがん細胞まで栄養が届かず、栄養がもらえないがんは細胞は壊死します。壊死したがん細胞に、乳腺組織内のカルシウムが沈着して起こるのが乳がんの石灰化です。ただし石灰化はがん以外の原因で起こることも多く、石灰化しているからと言って乳がんとは限りません。マンモグラフィーは乳がんのしこりを見つけるだけではなく、乳管の中に潜む異常な石灰を見つけることがあります。
閉経後、副腎などでつくられる男性ホルモンが脂肪組織でエストロゲンに転換されます。アナストロゾール(アリミデックス)、エキセメスタン(アロマシン)などは、この転換を行うアロマターゼという酵素の働きを阻害します。卵巣が機能しなくなった閉経後の人に適用されますが、吐き気、嘔吐、食欲不振、腰痛、疲労感、めまいなどの副作用があります。
メドロキシプロゲステロン(ヒスロン)などは、DNA合成抑制、下垂体・副腎・性腺系への抑制作用および抗エストロゲン作用などによりがん細胞を抑制します。他のホルモン剤が無効のときに用い、体重増加、浮腫(むくみ)、血栓症などの副作用があります。
タキモシフェン(ノルバデックス)、トレミフェン(フェアストン)は、エストロゲンとがん細胞にあるエストロゲン受容体(ER)との結合を妨げることで、がん細胞を抑制します。乳がん術後療法として最も広く用いられています。閉経前の人よりは閉経後の人で高い効果が得られ、吐き気、無月経などの副作用があります。
ゴセレリン(ゾラデックス)、リュープロレリン(リュープリン)は、卵巣機能を抑制し、エストロゲンの分泌を低下させ、がん細胞を抑制します。卵巣機能が働いている閉経前の人に適用されます。熱感、めまい、肩こり、頭重感などの副作用があります。
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